W 消費税の経理処理と記帳
消費税の課税事業者となる方は、帳簿への記帳を行う際、消費税に関する事項も併せて記帳する必要があります。
消費税の課税事業者となる方の記帳方法は、税込経理又は税抜経理のいずれかで経理する場合や簡易課税制度を選択する場合では異なりますので注意が必要です。
それぞれの経理処理と記帳方法の概要は、以下のとおりです。
1 消費税の経理処理
消費税の記帳のしかたには、税込経理方式と税抜経理方式があります。
いずれの方式を選択するかは、事業者の任意ですが、原則として全ての取引について同一の方式で経理する必要があります。
※ 免税事業者は税込経理方式となります
区 分 | 税込経理方式 | 税抜経理方式 |
意 義 | 消費税に相当する額とその消費税に係る取引の対価の額を区分しないで経理する方式 | 消費税に相当する額とその消費税に係る取引の対価の額を区分して経理する方式 |
経理方法 | 課税売上げ、課税仕入れ等に係る消費税に相当する額をその売上金額、仕入金額に含めて処理する方法 | 課税売上げ、課税仕入れ等に係る消費税に相当する額を、仮受消費税等、仮払消費税等として科目を設け、その売上金額、仕入金額に含めないで処理する方法 |
※ 納付すべき消費税の額は同額になります。
2 帳簿や請求書等の記録と保存
消費税は、帳簿や請求書等をもとに、課税売上げや課税仕入れ等の金額を把握して、納める消費税額を計算する仕組みになっています。帳簿は法令で定められている記載事項を記録し、請求書等とともに一定期間(原則として7年間)保存する必要があります。
帳簿と請求書等の両方が保存されていない場合や摘要欄等に法令で定められた内容が記載されていないと、一般課税による仕入税額控除ができませんので注意が必要です。
○ 法定記載事項
帳簿の記載事項 | |
@ | 取引の相手方(売上先・仕入先等)の氏名・名称 |
A | 取引を行った年月日 |
B | 取引内容 |
C | 取引金額 |
3 帳簿の記帳のしかた
消費税額を正しく計算するためには、日常の取引を記帳するときに、その取引が課税取引なのか非課税取引なのか、あるいは不課税取引(課税対象外取引)なのかを区分して記録しておく必要があります。
(1) 一般課税の場合
実際の記帳の際には、帳簿の摘要欄などに(課)・(非)・(不)又は○・×・△と記載するような工夫をするとよいでしょう。
【設例】
@ 本日の現金売上 | ¥25,000 |
A ビール券を販売 | ¥5,600 |
【設例】
@ ○○商店からA商品を現金で仕入れ | ¥43,200 |
A 接待交際費 A社へ祝金 | ¥30,000 |
(2) 簡易課税の場合
簡易課税制度とは、その課税期間における課税標準額に対する消費税額を基として、仕入控除税額を計算する制度をいいます。
具体的には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額に、みなし仕入率(第一種事業 90%、第二種事業 80%、第三種事業 70%、第四種事業 60%、第五種事業 50%、第六種事業 40%)を乗じて計算した金額が仕入控除税額とみなされる制度です。
したがって、実際の課税仕入れ等に係る消費税額を計算する必要はなく、課税売上高のみから納付する消費税額を算出することができます。
2種類以上の事業を営む事業者は、売上等の取引がどの事業区分に該当するかを記帳しておく必要があります。
実際の記帳の際には、帳簿の摘要欄等に第一種事業を「一」、第二種事業を「二」、第三種事業を「三」などと記載するような工夫をするとよいでしょう。
【設例:小売業】
@ 本日の現金小売 | ¥38,500(第二種事業) |
A 加工品の現金売上 | ¥4,320(第三種事業) |
・ | 2種類以上の事業を営む事業者が、売上を事業の種類ごとに区分していない場合は、当該事業に係る「みなし仕入率」のうち最も低い事業の「みなし仕入率」で消費税額を計算することになりますので、ご注意ください。 |
・ | 2種類以上の事業を営む事業者の場合、1種類の事業に係る課税売上高が全体の75%以上を占める場合には、その75%以上を占める事業のみなし仕入率を、全体の課税売上高に対して適用することができます。 |
※ 消費税に関する事項の詳細については、「消費税のあらまし」や各種パンフレット(各種パンフレットや各種届出書は、国税庁ホームページからダウンロードできます。なお、税務署にも用意しています。)をご覧ください。
事業区分 |
みなし |
該当する業種 | (事業の例示) | 注意点等 |
第一種事業 | 90% | 卸売業 | 他の者から購入した商品を、その性質及び形状を変更しないで他の事業者に販売する事業が該当する。 | 酒類小売業などでは、飲食店等事業者への販売分と一般消費者への販売を区分して経理する必要があります。 |
第二種事業 | 80% | 小売業 | 他の者から購入した商品を、その性質及び形状を変更しないで消費者に販売する事業が該当する。 | |
第三種事業 | 70% | 製造業 |
農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当する事業及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の |
パン・菓子の製造小売 |
第四種事業 | 60% |
その他の |
第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業及び第六種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店事業等が該当、また、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第四種事業に該当する。 | 事業者が自己で使用していた固定資産を譲渡する場合も第四種事業に該当します。 |
第五種事業 | 50% |
サービス |
運輸通信業、金融・保険業及びサービス業(飲食店業を除く。)をいい、第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除く。 | ー |
第六種事業 | 40% |
不動産 |
不動産業が該当する。 |
ー |
○ 消費税の軽減税率制度の実施について
平成31年(2019年)10月1日から消費税及び地方消費税を合わせた税率が8%から10%へ引き上げられ、この税率引上げと同時に消費税の軽減税率制度が実施されます。
・ |
軽減税率の対象品目は、
|
||||||
・ | 軽減税率対象品目の売上げや仕入れがある場合、これまでの記載事項に税率ごとの区分を追加した請求書等の発行や記帳などの経理(区分経理)が必要 | ||||||
・ | 平成35年(2023年)10月1日から、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)を導入 | ||||||
・ |
適格請求書等保存方式導入までの間、区分記載請求書等保存方式による仕入税額控除
|
(参考)請求書等の記載例
(注)「軽減税率の対象品目である旨」や「税率ごとに合計した税込対価の額」の記載がない請求書等を受け取った場合、受け取った事業者は、事実に基づいてこれらの事項を自ら追記することができます。
※ | 改正に伴う経過措置を含め、詳しくは、国税庁ホームページ(www.nta.go.jp)内の特設サイト「消費税の軽減税率制度について」をご覧ください。 | ||||
※ |
軽減税率制度に関するご相談は以下で受け付けております。
|
○ 農業及び林業並びに漁業のみなし仕入率の見直し
簡易課税制度における「食用の農林水産物を生産する農林水産業」の事業区分が第三種事業から第二種事業へ見直され、みなし仕入率は、現行の70%から80%へ引き上げられます。
なお、この改正は、平成31年(2019年)10月1日以後に行う取引から適用されます。
○ 消費税の軽減税率制度への対応が必要となる中小事業者への支援措置について
消費税の軽減税率制度への対応が必要な事業者の準備が円滑に進むよう次の支援が行われます。
1. |
中小の小売事業者等に対するレジの導入・電子的な受発注システムの改修等の支援(注) |
2. |
中小企業団体等の小売事業者への周知や対応サポート体制の整備 |
(注)消費税の軽減税率制度に対応するために行うPOSレジや受発注システム・経理システム等の改修に要する費用は、一般的にソフトウェアの効用を維持するために行われる支出に該当すると考えられ、修繕費として処理できます。
【参考】
T 消費税の確定申告が必要な方
@ | 基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超える方 |
A |
基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下で、特定期間(前年の1月1日から6月30日までの期間)の課税売上高が1,000万円を超える方 |
B | 基準期間(前々年)の課税売上高が1,000 万円以下で、「消費税課税事業者選択届出書」を提出している方 |
(ポイント)
・ | 基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えた方については、速やかに「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。 |
・ | 基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた方(又は課税売上高に代えて給与等の支払額の合計額により判定し、その金額が1,000万円を超えた方)については、速やかに「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。 |
・ | 免税事業者の方が課税事業者になることを選択する場合は、選択しようとする課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。 |
U 簡易課税制度
簡易課税制度の適用を受けるには、適用しようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
(ポイント)
・ | 「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した後、事業を廃止した場合を除き、2年間は継続して適用する必要があります。 |
・ |
「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している場合であっても、基準期間(前々年)の課税売上高が5,000万円を超える方は簡易課税制度を適用することができません。 |
・ | 簡易課税制度の適用を選択している方が免税事業者となった場合でも、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」が提出されない限り、簡易課税制度選択届出書は効力を有しています。したがって、再び課税事業者となったときには、簡易課税制度を適用して申告を行うこととなります。 |
(別 表)
一般的な必要経費の一覧表
項 目 | 具 体 例 | |
E | 給 料 賃 金 | 給料、賃金、退職金、食事や被服などの現物給与 |
F | 外 注 工 賃 |
修理加工などで外部に注文して支払った場合の加工費など |
G | 減価償却費 |
建物、機械、船舶、車両、器具備品などの償却費 |
※ |
繰延資産の |
開業費や開発費、共同的施設の負担金や建物を賃借するための権利金などの償却費 |
H | 貸 倒 金 | 売掛金、受取手形、貸付金などの貸倒損失 |
I | 地 代 家 賃 | 店舗、工場、倉庫等の敷地の地代や店舗、工場、倉庫等を借りている場合の家賃など |
J | 利子割引料 | 事業用資金の借入金の利子や受取手形の割引料など |
K | 租 税 公 課 |
@税込経理方式による消費税及び地方消費税の納付税額、事業税、固定資産税、自動車税、不動産取得税、登録免許税、印紙税などの税金、A商工会議所、商工会、協同組合、同業者組合、商店会などの会費や組合費 |
※ | 荷 造 運 賃 | 販売商品の包装材料費、荷造りのための費用、運賃 |
L | 水道光熱費 | 水道料、電気代、ガス代、プロパンガスや灯油などの購入費 |
M | 旅費交通費 | 電車賃、バス代、タクシー代、宿泊代電 |
N | 通 信 費 | 電話料、切手代、電報料 |
※ | 広告宣伝費 | @新聞、雑誌、ラジオ、テレビなどの広告費用、チラシ、折込み広告の費用、A広告用名入りライター、カレンダー、手ぬぐいなどの費用、Bショーウインドーの陳列装飾のための費用 |
※ | 接待交際費 | @取引先などを接待する茶菓飲食代、A取引先などを旅行、観劇などに招待する費用、B取引先などに対する中元、歳暮の費用 |
※ | 損害保険料 | 火災保険料、自動車の損害保険料 |
O | 修 繕 費 |
店舗、自動車、機械、器具備品などの修理代 |
P | 消 耗 品 費 |
@帳簿、文房具、用紙、包装紙、ガソリンなどの消耗品購入費、A使用可能期間が1年未満か取得価額が10万円未満の什器備品の購入費 |
※ | 福利厚生費 | @従業員の慰安、医療、衛生、保健などのために事業主が支出した費用、A事業主が負担すべき従業員の健康保険、厚生年金、雇用保険などの保険料や掛金 |
※ |
固定資産等 |
事業用固定資産や繰延資産の施設の取壊しや災害による滅失などの場合の損失 |
S | 雑 費 | 事業上の費用で他の経費に当てはまらない経費 |
※ Q又はRに項目名を記載することができます。
出所:国税庁