
先生、お疲れ様です。最近クライアントからよく「電子帳簿保存法はどのような内容になっているのか」と質問されるのですが、正直なところ全体像がつかめていなくて...詳しく教えていただけませんか?
お疲れ様です。確かに電子帳簿保存法は近年の改正で大きく変わりましたからね。基本から順番に説明しましょう。
まず、電子帳簿保存法というのは、簡単に言うと「国税関係の帳簿や書類を紙ではなく、電子データで保存することを認める法律」なんです。
なるほど。でも、なぜわざわざ法律で決める必要があるんでしょうか?
いい質問ですね。国税関係帳簿書類の保存は、申告納税制度の基礎となる重要な行為だからです。適正で公平な課税を確保するために、電子データで保存する場合には一定の要件を満たす必要があるんです。
「電子データ」というのは、具体的にはどういうものを指すんですか?
法律用語では「電磁的記録」と呼ばれていますが、これは情報そのものではなく、「情報がハードディスクやCD、DVD、磁気テープ、そして最近ではクラウドサービスなどの媒体に記録・保存されて、一定の順序で読み出せる状態にあるもの」を指します。
クラウドサービスも含まれるんですね!では、どんな帳簿や書類が対象になるんでしょうか?
対象となる国税関係帳簿書類は、大きく2つに分けられます。
まず「国税関係帳簿」ですが、これは仕訳帳、総勘定元帳、売掛金元帳、買掛金元帳などのことです。ただし、注意点があります。
どのような注意点ですか?
国税関係帳簿については、「最初の記録段階から一貫してコンピュータを使用して作成したもの」に限って、電子保存が認められるんです。つまり、手書きで作成した帳簿は電子保存できません。
そうなんですね。もう一つの「国税関係書類」はいかがですか?
国税関係書類には、注文書、契約書、領収書、棚卸表、貸借対照表、損益計算書などが含まれます。こちらは2パターンあって、「一貫してコンピュータで作成したもの」と「書面で作成または受領したものをスキャンして保存するもの」の両方が認められています。
スキャン保存も可能なんですね。ところで、売上伝票などの伝票類はどうなりますか?
それはケースバイケースです。企業内での決裁や整理目的で使用している伝票類は、基本的に国税関係書類には該当しません。ただし、国税関係帳簿の一部(補助簿)として位置づけられる場合は、電子保存が可能になります。
なるほど。では、電子保存をする際に満たすべき要件はどのようなものですか?
法令で定められた要件がいくつかあります。例えば、電子計算機処理システムの概要書等の備付けなどです。そして重要なのは、国税関係帳簿と国税関係書類では、保存に必要な要件が異なるということです。
最近、「電子取引」という言葉もよく聞くのですが、これも関連しているんでしょうか?
その通りです!電子取引というのは、「取引情報の授受を電磁的方法により行う取引」のことです。電子帳簿保存法では、電子取引により授受した取引情報についても、別途保存義務が設けられています。
なぜ別途保存義務が必要なんですか?
電子取引では、注文書や領収書などの原始記録が書面として保存されない状況が生じるからです。そのため、電子取引データは法第7条に基づいて、データによる保存が義務付けられているんです。
最近法改正があったと聞いたのですが...
はい、令和3年度の税制改正で大幅に見直されました。経済社会のデジタル化を踏まえて、経理の電子化による生産性や記帳水準の向上を目的として、手続きと要件が簡素化されたんです。
具体的にはどのように変わったんですか?
以前は非常に厳格な要件が必要でしたが、例えば国税関係帳簿について言えば、最低限の要件として「税務職員によるダウンロードの求めに応じることができる」ようにしておくだけで、電磁的な保存が認められるようになりました。
それは随分と簡素化されましたね!電子帳簿保存法にはメリットもあるんでしょうか?
はい、優良な電子帳簿の要件を満たして電磁的記録の備付けおよび保存を行っている場合、過少申告加算税の軽減措置の適用を受けることができます。
それは大きなメリットですね。でも、この軽減措置を受けるには何か条件があるんでしょうか?
適用を受けようとする税目に係る特定の国税関係帳簿(特例国税関係帳簿と呼ばれます)の全てについて優良な電子帳簿の要件を満たし、かつ事前に届出書を提出する必要があります。
市販の会計ソフトを使っているクライアントも多いのですが、それでも電子保存は可能ですか?
もちろんです。市販の会計ソフトを使用している場合でも、法令で定められた要件を満たせば電磁的記録等による保存が認められます。
過少申告加算税の軽減措置はどうでしょうか?
それについては、使用する会計ソフト等に優良な電子帳簿の要件を満たすための機能が必要になります。例えば、訂正・削除の履歴を確認できる機能などですね。
ソフトが要件を満たしているかどうか、どうやって確認すればいいんでしょうか?
公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による認証を受けたソフトウェアがあります。これらは優良な電子帳簿に係る要件適合性の確認がされており、認証マークが印字されているので、それを目安にできますね。
よく分かりました!最後に、電子帳簿保存法を一言でまとめるとどのような法律でしょうか?
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類を電磁的記録等で保存することを認める法律であり、保存方法に応じた要件が定められています。特に電子取引に関するデータ保存が義務化され、優良な電子帳簿の利用には過少申告加算税の軽減措置というメリットがある、というのがポイントですね。
ありがとうございました!これでクライアントに自信を持って説明できそうです。詳細な要件については、また個別に勉強させていただきます。
そうですね。具体的なケースが出てきたら、また一緒に確認しましょう。電子帳簿保存法は実務に直結する重要な法律ですから、しっかりと理解を深めていってください。
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)の概要は次のとおりです。
(1)国税関係帳簿書類のうち電子計算機を使用して作成している国税関係帳簿書類については、一定の要件の下で、電磁的記録等(電磁的記録又は電子計算機出力マイクロフィルム(以下「COM」といいます。))による保存等(国税関係帳簿の場合には備付け及び保存をいいます。以下同様となります。)が認められます(法4@A、5)。
また、取引の相手先から受け取った請求書等及び自己が作成したこれらの写し等の国税関係書類(決算関係書類を除きます。)について、書面による保存に代えて、一定の要件の下で、スキャン文書による保存が認められます(法4B)。
(2)所得税(源泉徴収に係る所得税を除きます。)及び法人税の保存義務者がいわゆるEDI取引やインターネットを通じた取引等の電子取引を行った場合には、電子取引により授受した取引情報(注文書、領収書等に通常記載される事項)を電磁的記録により保存しなければなりません(法7)。
電子帳簿保存法は、納税者の国税関係帳簿書類の保存に係る負担の軽減等を図るために、その電磁的記録等による保存等を容認しようとするものですが、納税者における国税関係帳簿書類の保存という行為が申告納税制度の基礎をなすものであることに鑑み、適正公平な課税の確保に必要な一定の要件に従った形で、電磁的記録等の保存等を行うことが条件とされています。
また、所得税法及び法人税法では、取引に関して相手方から受け取った注文書、領収書等や相手方に交付したこれらの書類の写しの保存義務が定められていますが、同様の取引情報を電子取引により授受した場合には、この注文書、領収書等の原始記録の保存が行われない結果となりかねない状況にあったため、電子帳簿保存法において、新たに電子取引により授受した取引情報について保存義務が設けられています。
令和3年度の税制改正では、経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存等の手続及び要件について抜本的な見直しが行われ、電子取引により授受した取引情報の保存方法等についても見直しが行われています。
なお、スキャナ保存に関しては、別冊「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」、電子取引による保存に関しては、別冊「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」において解説します。
出所:国税庁