
先生、最近クライアントの株式会社Aから質問があったんです。「市販の会計ソフトを使って経理処理や申告書の作成などを行っている場合には、国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存等は認められますか」って。
ああ、それはよくある質問だね。結論から言うと、市販の会計ソフトを使っていても電子保存は認められるよ。ただし、きちんと要件を満たす必要があるんだ。
そうなんですね。具体的にはどんな要件があるんでしょうか?
まず基本的な要件として、法令で定められた要件を満たす必要がある。例えば、ディスプレイやプリンターを備え付けること、システムの概要書を整備することなどだね。令和3年度の税制改正で大幅に緩和されたから、以前より取り組みやすくなったよ。
緩和されたんですね。でも、もしその要件を満たせない場合はどうなるんですか?
その場合は、会計ソフトで作成した帳簿書類を紙に出力して保存する必要がある。つまり、電子保存か紙保存かのどちらかを選択することになるね。
なるほど。ところで、過少申告加算税の軽減措置というのを聞いたことがあるんですが、これは会計ソフトと関係があるんでしょうか?
いい質問だね。実は、過少申告加算税の軽減措置を受けたい場合は、さらに厳しい要件があるんだ。これは「優良な電子帳簿」と呼ばれる制度に関わってくる。
優良な電子帳簿ですか?
そう。例えば、こんな事例を考えてみよう。個人事業主のBさんが、ある市販の会計ソフトを使って青色申告をしているとする。税務調査で所得の計算に誤りが見つかり、本来なら10%の過少申告加算税がかかるところ、優良な電子帳簿の要件を満たしていれば5%に軽減される可能性があるんだ。
それは大きな違いですね!その優良な電子帳簿の要件というのは?
主に3つの要件がある。まず、特例国税関係帳簿の全てを会計ソフトなどで作成していること。これには所得税法・法人税法に規定される仕訳帳、総勘定元帳、消費税法に規定される帳簿などが含まれる。
2つ目は?
使用する会計ソフトに「優良な電子帳簿」の機能が備わっていること。例えば、電磁的記録の訂正・削除の履歴を確認できる機能などだね。
具体的にはどんなイメージでしょうか?
例えば、C商店の経理担当者が間違って売上を100万円と入力してしまい、後で正しい80万円に修正したとしよう。優良な電子帳簿対応ソフトなら、「いつ、誰が、何を、どのように修正したか」の履歴がきちんと残る。これが重要なんだ。
そして3つ目は?
事前届出書の提出だね。軽減措置を受けるためには、あらかじめその旨を記載した届出書を提出する必要がある。これを忘れると、せっかく要件を満たしていても軽減措置は受けられない。
事前届出が必要なんですね。ところで、使っている会計ソフトが優良な電子帳簿の要件を満たしているかどうかは、どうやって確認すればいいんでしょうか?
メーカーの操作説明書を確認するのが一番確実だね。また、JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)による認証を受けたソフトウェアには、JIIMA認証マークが印字されている場合もある。
JIIMAですか。聞いたことがあります。
そう。例えば、株式会社Dが新しい会計ソフトの導入を検討しているとしよう。複数の候補があるなら、JIIMA認証マークがついているものを選んだ方が安心だね。ただし、認証マークがなくても要件を満たしているソフトもあるから、メーカーに直接確認することも大切だ。
実際のクライアント対応では、どんなアドバイスをすればいいでしょうか?
まず、現在使っているソフトの機能を確認することから始めよう。基本的な電子保存の要件を満たしているかどうか、そして優良な電子帳簿の機能があるかどうかを調べる。もし機能が不足している場合は、ソフトのアップグレードや乗り換えを検討する必要があるかもしれない。
コスト面も考慮する必要がありますね。
その通り。例えば、年間の税額が少ない小規模事業者の場合、過少申告加算税の軽減メリットよりも、高機能な会計ソフトの導入コストの方が高くつく可能性もある。一方で、大きな事業を営んでいる場合は、軽減措置のメリットが大きいから、投資する価値があるかもしれない。
個々のクライアントの状況に応じて判断する必要があるんですね。
そ
ういうこと。ただし、電子帳簿保存は税務上のメリットだけでなく、業務効率化や書類の保管スペース削減など、他の利点もある。総合的に判断することが大切だね。
分かりました。株式会社Aにも、まず現在のソフトの機能確認から始めるようアドバイスしてみます。
それがいいね。何か分からないことがあったら、また相談してください。電子帳簿保存は複雑な制度だから、一つ一つ丁寧に確認することが重要だよ。
はい、ありがとうございました。とても勉強になりました!
市販の会計ソフトを使用し、ディスプレイやシステムの概要書等を備え付けること等の法令で定められた要件を満たしている場合には、紙による保存等に代えて、電磁的記録等による保存等を行うことが認められます。
なお、電磁的記録等による保存等を行う場合の具体的な要件については【問7】をご覧ください。
国税関係帳簿書類は申告納税制度の基礎となる重要なものであるため、その電磁的記録等による保存等は、適正公平な課税が損なわれることがないように法令で定められた要件を満たした場合に限り認められてきましたが、令和3年度の税制改正によりその要件が大幅に緩和されました。
そのため、市販の会計ソフトを使用して、見読可能装置(ディスプレイ等)やシステムの開発関係書類(システムの概要書等)の備付け等の法令で定められた要件を満たしている場合には、紙による保存等に代えて、電磁的記録等による保存等を行うことが認められます。
この法令で定められた要件を満たせない場合には、会計ソフトを使用して作成した帳簿書類について電磁的記録等による保存等は認められないことから、紙出力して保存等を行うことになります。
なお、国税関係帳簿について、法第8条第4項(過少申告加算税の軽減措置)の規定の適用を受ける場合には、税務署長への届出に加え、特例国税関係帳簿の全てを会計ソフト等により作成している必要があり、その作成に使用する会計ソフト等には、例えば電磁的記録の訂正・削除の履歴を確認できる機能等の優良な電子帳簿の要件を満たすための機能が必要となるため、使用している会計ソフト等に当該機能が備わっていない場合は、同項の規定の適用を受けることはできません(優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象となる特例国税関係帳簿については【問39】をご覧ください。) 。
いわゆる市販の会計ソフト等におけるこれらの要件に関する事項についてはメーカー等の操作説明書等で確認することとなります。
また、市販の会計ソフト等のうち、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(以下「JIIMA」といいます。)による優良な電子帳簿に係る要件適合性の確認を受けたものについては、パッケージ等にJIIMA認証の認証マークが印字されています。
出所:国税庁