
先生、クライアントの田中商事さんから質問を受けまして...。「売上伝票を電子化して保存したいけれど、電子帳簿保存法を適用できるか」と聞かれました。どのように回答すればよいでしょうか?
なるほど、よくある質問ですね。実は、売上伝票の電子保存については、一律に適用できるわけではないんです。その伝票がどのような目的で作られているかが重要なポイントになります。
どのような目的で作られているか...ですか?具体的にはどういうことでしょう?
例えば、田中商事さんの営業部門が、社内の売上管理や上司への報告のために作成している売上伝票があるとします。これは主に「企業内での決裁や整理を目的」として作られていますよね?
はい、そうですね。営業担当者が売上実績を報告するために作っている伝票ですね。
その通りです。このような伝票は、所得税法施行規則第63条第1項や法人税法施行規則第59条第1項等に規定する「保存すべき国税関係書類」には該当しません。つまり、電子帳簿保存法第2条第2号の「国税関係書類」に当たらないため、電子帳簿保存法の適用は受けられないんです。
なるほど...では、売上伝票は一切電子化できないということでしょうか?
いえいえ、そうではありません。適用が認められるケースもあります。例えば、田中商事さんの経理部門で、売掛金台帳の記載内容を補完するために詳細な売上伝票を作成・保存しているとします。
売掛金台帳を補完する、ですか?
そうです。具体例を挙げると、売掛金台帳には「A社 100万円」としか記載されていないけれど、実際には複数の商品を複数回に分けて販売している場合があります。その詳細を記録した売上伝票が、売掛金台帳の記載内容を補完する役割を果たしているんです。
ああ、なるほど!その場合は帳簿の一部として扱われるということですね。
その通りです。この場合、売上伝票は「国税関係帳簿の一部(補助簿)」を構成することになります。つまり、国税関係帳簿とみなされるため、電子帳簿保存法第4条第1項の要件を満たせば、電磁的記録による保存が可能になります。
要件というのは、具体的にはどのようなものでしょうか?
主要な要件としては、真実性の確保(データの改ざん防止)、可視性の確保(データの検索・表示機能)、そして関係書類の備付けなどがあります。例えば、システムの操作説明書を備え付けたり、データの検索機能を確保したりする必要があります。
田中商事さんの場合、どちらに該当するか判断するには、どのような点を確認すればよいでしょうか?
まず確認すべきは、その売上伝票が経理処理や税務申告にどう関連しているかです。単純に営業報告用なら適用外、帳簿記録の根拠資料として使用されているなら適用可能性があります。田中商事さんには「その売上伝票は売掛金台帳や売上帳の記載根拠として使用していますか?」と聞いてみてください。
分かりました。つまり、伝票の「役割」によって判断が変わるということですね。
まさにその通りです。電子帳簿保存法は納税者の負担軽減を図る制度ですが、適正公平な課税の確保という観点から、一定の要件に従うことが求められています。だからこそ、単なる社内資料と税務上重要な帳簿類は区別して扱われているんです。
よく理解できました。田中商事さんには、まず売上伝票の使用目的を確認していただいて、その上で適用可能性を判断させていただくということですね。
その通りです。そして適用可能な場合は、システムの要件も含めて詳しくご説明する必要がありますね。とても良い質問でした。このような実務的な疑問点は、お客様にとって非常に重要ですから。
ありがとうございます。電子帳簿保存法は複雑だと思っていましたが、伝票の目的や役割を整理して考えると理解しやすくなりました。
売上伝票などの伝票類が、企業内での決裁、整理などを目的として作成されている場合は、所得税法施行規則第63条第1項及び法人税法施行規則第59条第1項等に規定する保存すべき書類には当たらないことから、法第2条第2号定義に規定する国税関係書類に該当しないので、電子帳簿保存法の適用はありません。
一方、伝票が国税関係帳簿の記載内容を補充する目的で作成・保存され、その伝票が国税関係帳簿の一部(補助簿)を構成する場合には国税関係帳簿となりますので、法第4条第1項国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存等及び法第5条第1項国税関係帳簿書類の電子計算機出力マイクロフィルムによる保存等に規定する財務省令で定める要件を満たした場合には、電磁的記録による保存を行うことは可能です。
出所:国税庁