
先生、クライアントの山田商事さんから質問を受けたんですが、「今期の途中から領収書や請求書を電子保存に切り替えたいんだけど、可能ですか?」って聞かれまして...。どう答えればよいでしょうか?
いい質問ですね。まず、国税関係の書類と帳簿を区別して考える必要があります。佐藤さん、この違いは理解していますか?
えーっと...書類は請求書や領収書で、帳簿は総勘定元帳や仕訳帳のことですよね?
その通りです。そして、この2つでは電子保存の取り扱いが大きく異なるんです。まず書類の方から説明しましょう。
国税関係書類については、課税期間の途中からでも電磁的記録による保存が認められています。これは非常に重要なポイントです。
それはなぜなんでしょうか?
書類というのは、取引が発生するたびに個別に作成されて、作成されると同時に保存される性質のものだからです。例えば、4月に売上があったら請求書を作成して保存する、5月に仕入があったら請求書を受け取って保存する、といった具合にね。
なるほど!つまり、各書類は独立して存在するから、途中から保存方法を変更しても問題ないということですね。
正解です。具体例で考えてみましょう。山田商事さんが3月決算だとして、現在10月だとします。
4月から9月まで:紙で請求書・領収書を保存
10月から翌年3月まで:電子保存に切り替え
これは全く問題ありません。
でも、同じ課税期間内で保存方法がバラバラになっても大丈夫なんですか?
大丈夫です。なぜなら、4月の請求書は4月に作成・保存され、10月の請求書は10月に作成・保存されるからです。それぞれが独立しているので、保存方法を統一する必要はないんです。
帳簿の場合はどうなんでしょうか?
これが重要な違いなんです。国税関係帳簿の場合は、原則として課税期間の途中から電磁的記録による保存はできません。
えっ、なぜですか?
帳簿は課税期間の開始日に備え付けられて、1年間を通じて順次取引内容が記録されていくものだからです。総勘定元帳を思い浮かべてみてください。
田中税理士: 例えば売掛金勘定の場合:
4月1日:期首残高 100万円
4月15日:売上により 50万円増加
4月30日:入金により 30万円減少
...というように、連続して記録されていきますよね。
あ、そうですね!1つの帳簿の中で取引が積み重なっていくから、途中で保存方法を変更するのは難しいということですね。
その通りです。これは取扱通達4-4のなお書きで明確に規定されています。
山田商事さんには、書類は途中から電子保存できるけど、帳簿は年度始めからじゃないとダメということを伝えればいいんですね。
基本的にはそうです。ただし、実務上の注意点がいくつかあります。
まず、電子保存を行う場合は電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。例えば:
税務署への事前申請(スキャナ保存の場合)
解像度やカラー画像の要件
タイムスタンプの付与
検索機能の確保
結構大変そうですね...
そうですね。令和4年1月から要件が緩和されましたが、それでも準備は必要です。山田商事さんにはシステム導入の検討時間も必要でしょう。
いつから始めるのがおすすめでしょうか?
書類については今すぐでも可能ですが、実務的には次の課税期間の開始時点、つまり来年4月からの導入をお勧めします。その理由は:
帳簿も一緒に電子化できる
システムの準備期間が取れる
管理が統一できて混乱が少ない
なるほど、法的には可能でも、実務的な観点から最適なタイミングを提案するということですね。
その通りです。顧客の立場に立って、最も効率的で間違いの少ない方法を提案するのが私たちの役割です。
整理すると:
国税関係書類:課税期間途中からの電子保存が可能
国税関係帳簿:原則として課税期間開始時からでないと不可
実務的には期首からの一括導入がおすすめ
ということですね!
完璧です!山田商事さんには、この内容を説明して、来期からの本格導入を提案してみてください。準備期間も含めて、しっかりサポートしていきましょう。
はい、ありがとうございました!とても勉強になりました。
国税関係書類については、課税期間の中途からでも電磁的記録等による保存を行うことができます。
国税関係帳簿については、課税期間の開始の日にそれが備え付けられ、順次それに取引内容が記録されていくものであることから、原則的には、課税期間の中途から電磁的記録等による保存をすることはできないと解されます(取扱通達4−4なお書き)。
これに対して、国税関係書類については、それが作成されると直ちに保存されるものであることから、課税期間の中途からでもそれ以後の作成分を電磁的記録等により保存することができることとなります。
出所:国税庁