
先生、最近クライアントから「帳簿を電子で保存したい」という相談が増えているのですが、電子帳簿保存法の要件について詳しく教えていただけますか?
いい質問ですね。電子帳簿保存法は令和3年度の改正で大きく変わりました。まず大前提として、国税関係帳簿書類を電磁的記録で保存する場合には、一定の要件を満たす必要があります。
要件といっても、いろいろあるんですよね?
そうです。大きく分けて3つのカテゴリーがあります。まず「共通の要件」、そして「優良な電子帳簿に特有の要件」、最後に「COM保存に特有の要件」です。順番に説明していきましょう。
まず共通の要件から。これは電子保存やCOM保存を行う全ての場合に必要な要件です。
概要書というのは、具体的にはどんなものでしょうか?
例えば、A商事という会社がTKC会計システムを使っているとしましょう。この場合、「TKC会計システムを使用して売掛帳、買掛帳、現金出納帳を作成している」といった処理システムの概要を書面にまとめる必要があります。最近は、オンラインマニュアルやヘルプ機能が充実しているソフトも多いので、そういったものでも代用できます。
なるほど。では、入出力の手順なども記載する必要があるんですね。
その通りです。「毎月25日に売上データを入力し、月末に残高確認を行う」といった業務手順も明記する必要があります。もし記帳代行業者に委託している場合は、委託契約書で代えることもできますよ。
次に、帳簿の内容をいつでも確認できるディスプレイやプリンタの備付けが必要です。
パソコンとプリンタがあれば大丈夫ということですか?
基本的にはそうです。ただし重要なのは「速やかに出力できること」です。例えば、税務調査で「3月の売掛帳を見せてください」と言われた時に、すぐに画面表示やプリントアウトができる状態でなければなりません。
画面のスクリーンショットでも大丈夫ですか?
整然とした形式で明瞭に出力できれば認められます。ただし、一つの取引データが複数枚に分かれて印刷されるような形式は駄目です。例えば、1つの仕訳が2ページにまたがって印刷されるようなケースですね。
これは税務調査の時のことですね?
そうです。税務職員から「データを提出してください」と求められた時に応じられる体制が必要です。ただし、ここで注意が必要なのは、データの形式です。
どんな形式で提出すればいいんでしょうか?
CSV形式などの検索可能な形式が基本です。PDFや画像ファイルだけでは検索性が劣るため、原則として認められません。例えば、会計ソフトからCSV形式でエクスポートしたデータを提供する、といった形になります。
ただし、優良な電子帳簿の要件を全て満たしている場合は、このダウンロード要件は不要になります。これは大きなメリットですね。
「優良な電子帳簿」というのは、令和3年改正で新しくできた区分ですよね?
その通りです。これを満たすと過少申告加算税の軽減措置が受けられます。要件は4つあります。
まず、帳簿の訂正や削除をした場合に、その履歴が確認できるシステムでなければなりません。
例えば、売上金額を間違えて入力して後で修正した場合、その履歴が残るということですか?
そうです。「当初100万円で入力 → 150万円に修正(修正日:○月○日)」といった履歴が確認できる必要があります。ただし、入力から1週間以内であれば、履歴を残さないシステムでも認められる場合があります。これは入力ミスの即座の修正を想定した措置ですね。
これはどういう意味でしょうか?
例えば、売掛帳に記載された取引が、総勘定元帳の売掛金勘定にも正しく反映されているかを確認できることです。「売掛帳の○番の取引は、総勘定元帳の○月○日の仕訳に対応している」といった関連性が分かる状態ですね。
これが一番重要かもしれません。3つの検索条件があります。
どんな条件ですか?
「取引年月日」「取引金額」「取引先」です。例えば、「2024年3月1日から3月31日まで」「金額50万円以上100万円以下」「取引先が△△商事」といった条件で検索できる必要があります。
複数の条件を組み合わせることもできるんですね?
はい。「2024年3月かつ金額100万円以上かつ取引先が○○会社」といった複合検索ができる必要があります。段階的な絞り込みでも構いません。
実際にクライアントが導入する場合の注意点はありますか?
いくつかありますね。まず、市販の会計ソフトでも要件を満たせば電子保存は可能です。ただし、過少申告加算税の軽減を受けたい場合は、特例国税関係帳簿の全てが優良な電子帳簿の要件を満たす必要があります。
「全て」ということは、一部だけ電子化しても駄目なんですね。
軽減措置については、そうです。例えば、仕訳帳と総勘定元帳は優良な電子帳簿の要件を満たしているけれど、売掛帳は紙で保存している、という場合は軽減措置の対象外になります。
最近、クラウド会計ソフトを使いたいという相談も多いのですが。
クラウドサービスの利用も問題ありません。サーバが海外にあっても大丈夫です。ただし、保存場所(通常は会社の事務所)で速やかに出力できる状態である必要があります。
インターネット環境が必要ということですね。
そうですね。停電やネットワーク障害で一時的にアクセスできない程度は許容されますが、基本的には速やかにアクセスできる環境を整えておく必要があります。
記帳代行業者に委託している場合はどうでしょうか?
委託自体は可能ですが、制限があります。課税期間中にまとめて記帳することや、記帳代行業者の事務所を保存場所にすることは認められません。
つまり、リアルタイムに近い形で記帳して、データは会社で管理する必要があるということですね。
その通りです。例えば、毎月の請求書や領収書を記帳代行業者に送って、翌月末にまとめて会計データを受け取る、といった運用では要件を満たしません。
最後に、よくある間違いについて説明しましょう。
年度の途中から電子保存を始めることはできますか?
国税関係書類(請求書、領収書など)は途中からでも可能です。しかし、国税関係帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など)は原則として課税期間の開始日から備え付ける必要があります。
つまり、4月決算の会社なら、5月1日から電子帳簿を始める必要があるということですね。
そうです。年度途中の10月から電子帳簿を始めて、それ以前の分は紙で保存、というのは原則として認められません。
もう一つ重要なのは、「自己が一貫して電子計算機を使用して作成した書類」である必要があることです。
例えば、請求書を会計ソフトで作成した後、手書きで備考を追加したら駄目ということですか?
その通りです。その場合は書面での保存が必要になります。ただし、代表者印の押印や、データベースから自動で反映される情報の追加は認められます。
優良な電子帳簿として扱ってもらうには、何か手続きが必要ですか?
はい。対象となる国税の法定申告期限までに、所轄税務署に届出書を提出する必要があります。例えば、法人税なら申告期限の2か月後までですね。
つまり、3月決算の会社なら5月31日までに届出書を提出するということですね。
そうです。この届出を忘れると、要件を満たしていても優良な電子帳簿としては扱われませんから注意が必要です。
だいぶ理解できました。要件が多くて複雑ですが、クライアントにはどのように説明すればよいでしょうか?
まず、クライアントの目的を確認することが大切です。単に電子保存したいだけなのか、過少申告加算税の軽減措置も受けたいのか。目的によって必要な要件が変わってきます。
軽減措置を受けたい場合は、ハードルが高くなりますね。
そうですね。ただし、最近はJIIMA認証を受けた会計ソフトも増えているので、そういったものを選べば要件適合性の確認がしやすくなります。クライアントには、「認証済みのソフトを選ぶ」「届出書の提出を忘れない」「システムの運用ルールを明確にする」この3点を特に強調して説明するとよいでしょう。
ありがとうございました。とても勉強になりました。次回クライアントに相談された時は、今日教えていただいたポイントを踏まえて対応してみます。
電子帳簿保存法は実務に直結する重要な法律です。不明な点があれば、遠慮なく相談してくださいね。クライアントの業務効率化と税務リスクの軽減、両方を実現できるよう一緒に取り組んでいきましょう。
電磁的記録等による国税関係帳簿書類の保存等に当たっては、電子計算機処理システムの概要書等の備付け等の要件を満たす必要があります(規則2、3)。
国税関係帳簿と国税関係書類では、それらの保存等を行う場合の要件の内容が異なり、国税関係帳簿についてはさらに、令和3年度の税制改正によって過少申告加算税の軽減措置の対象となる信頼性の高い帳簿である優良な電子帳簿(規則5)とそれ以外の帳簿(規則2、3)に区分されたことにより、それぞれ要件が異なっています。
詳しくはQ&A問7の表をご覧ください。
出所:国税庁