
先生、クライアントから「電子帳簿保存をするのに、どのくらいの性能のディスプレイやプリンタを何台用意すればいいのか」という質問を受けたのですが、法令上の規定はあるのでしょうか?
いい質問ですね。実は、ディスプレイやプリンタの性能や設置台数について、法令上の具体的な要件は設けられていません。
えっ、そうなんですか?てっきり「〇〇以上の解像度で」とか「従業員〇人につき1台」みたいな基準があるのかと思っていました。
その気持ちはよく分かります。でも考えてみてください。税務調査の際には、どんな機器を使うと思いますか?
うーん... 特別な機器を持参するのではなく、その会社が普段使っているものを使うということでしょうか?
その通りです!税務調査では、保存義務者が日常業務で使用しているディスプレイやプリンタ等が用いられるんです。つまり、普段の業務に支障がない程度の性能と台数があれば、それで十分ということになります。
なるほど!日常業務で使えているということは、その事業規模に応じた適切な環境が整っているという判断なんですね。
まさにそういうことです。例えば、従業員5人の小さな会社と、100人の大企業では、当然必要な機器の台数も性能も違いますよね。でも、それぞれが日常業務を問題なく行えているなら、その環境で税務調査にも対応できるということです。
でも、何か注意点はありますか?
はい、重要なポイントがあります。規則第2条第2項第2号で、電磁的記録を**「速やかに出力することができる」**ことが要件とされているんです。
「速やかに」というのは、具体的にはどの程度のことを指すのでしょうか?
税務調査では帳簿書類の確認が多いことを考慮して、必要な時にすぐに画面表示や印刷ができる状態である必要があります。例えば、こんなケースを考えてみましょう。
はい、お聞きします。
A商事という会社では、経理担当者が普段使っているパソコンが1台しかないとします。税務調査の日に、その担当者が通常業務で会計ソフトを使っていて、調査官から「この取引の詳細を確認したい」と言われた場合、どうしたらいいでしょうか?
あ、それは困りますね。通常業務を中断しないといけなくなってしまいます。
そういうことです。だから、日常的にディスプレイ等を常時使用している場合は、税務調査時に優先的に使用できるよう、事前に日常業務との調整を行うことが望ましいとされているんです。
でも、小規模な事業者さんだと、どうしても機器の台数に限りがありますよね。そういう場合はどうすればいいのでしょうか?
いい視点ですね。小規模事業者では確かにそういう問題が起こり得ます。そのような場合の対応策として、電磁的記録のコピー(複製データ)を作成して、税務職員に提出できるようにしておくという方法があります。
コピーデータでの対応も認められているんですね!
はい。例えば、個人事業主のB税理士事務所では、パソコンが1台しかなく、税務調査の日も通常業務を完全に止めることができないとします。この場合、事前に必要と思われる帳簿データをUSBメモリやCDにコピーしておいて、調査官に提供するという方法で対応できます。
それなら小規模な事業者さんでも対応できそうですね。他に具体的な事例はありますか?
そうですね。C製造業という中規模企業の例をお話ししましょう。ここでは経理部に3台のパソコンがあり、それぞれで会計処理、給与計算、在庫管理を行っています。税務調査の際は、会計処理用のパソコンを調査に優先的に使用し、給与計算や在庫管理の業務は一時的に他のパソコンで行うという調整をしました。
事前の準備と調整が大切なんですね。
その通りです。要するに、法令では具体的な台数や性能は定めていませんが、実際の運用で困らないような環境を整えておくことが重要なんです。
まとめると、特別な機器を用意する必要はないけれど、税務調査時にスムーズに対応できるような準備や調整が必要ということですね。
まさにその通りです。クライアントには「普段の業務環境で十分だが、調査時の対応について事前に検討しておきましょう」とアドバイスしてあげてください。
分かりました!これで自信を持ってクライアントに説明できます。ありがとうございました。
ディスプレイやプリンタ等の性能や設置台数等は、要件とされていません。
電磁的記録は、その特性として、肉眼で見るためにはディスプレイ等に出力する必要がありますが、これらの装置の性能や設置台数等については、@税務調査の際には、保存義務者が日常業務に使用しているものを使用することとなること、A日常業務用である限り一応の性能及び事業の規模に応じた設置台数等が確保されていると考えられることなどから、法令上、特に要件とはされていません。
ただし、規則第2条第2項第2号では、ディスプレイ等の備付けとともに、「速やかに出力することができる」ことも要件とされています。このため、日常業務においてディスプレイ等を常時使用しているような場合には、税務調査では帳簿書類を確認する場面が多いことから、税務調査にディスプレイ等を優先的に使用することができるよう、事前に日常業務との調整等を行っておく必要があると考えます。
なお、小規模事業者では、使用できるディスプレイ等の台数が限定されているために、そのような調整を図った上でもなお税務調査にディスプレイ等を優先的に使用することが一時的に難しい状況が発生することも考えられますが、そのような場合には当該電磁的記録のコピー(複製データ)を作成して税務職員に提出できるようにしておくなどの対応に代える必要があります。
出所:国税庁