
先生、最近クライアントの中小企業から「会計ソフトをクラウド化したいけど、電子帳簿保存法的に大丈夫でしょうか?」という相談が増えているんです。特に、サーバが海外にあるクラウドサービスについて不安を感じている社長さんが多くて...
なるほど、確かに最近多い相談ですね。結論から言うと、クラウドサービスの利用や海外サーバの利用は、一定の条件を満たせば電子帳簿保存法上認められているんですよ。
そうなんですか!でも条件があるということは、何でもOKというわけではないんですね?
その通りです。まず2つの重要な条件があります。1つ目は、保存場所にある電子計算機とサーバが通信回線で接続されていること。2つ目は、保存場所において電磁的記録を画面や書面に整然とした形式で速やかに出力できる状態であることです。
具体的にはどういうことでしょうか?例えば、東京の会社がアメリカのAWSを使っている場合で考えてみると...?
良い例ですね。東京の本社(保存場所)にあるパソコンから、インターネット経由でアメリカのAWSサーバにアクセスできて、そこに保存されている会計データを本社のパソコンで画面表示したり、プリンターで印刷したりできれば条件を満たします。
なるほど!つまり物理的にデータが海外にあっても、日本国内の事業所で「いつでも見れて、いつでも印刷できる」状態になっていれば大丈夫ということですね。
まさにその通りです。法律の趣旨は納税者の負担軽減ですから、実質的に紙の帳簿が手元にあるのと同じような状態が確保されていれば良いという考え方なんです。
でも先生、もしインターネット回線が不調になって、データにアクセスできなくなったらどうなるんでしょう?
鋭い質問ですね。そこで重要になってくるのがバックアップです。法令上の必須要件ではありませんが、通信トラブルによる出力障害を避けるため、バックアップデータの保存が強く推奨されています。
例えば、どんなバックアップ方法がありますか?
例えば、メインのクラウドサービスとは別に、国内のサーバにもデータをバックアップしておく方法や、定期的にローカルPCにダウンロードして保存する方法などがあります。A商事さんの場合は、海外のメインサーバと国内のバックアップサーバの両方を使って運用していますね。
なるほど、リスク分散ですね。他に気をつけるべき点はありますか?
管理面も重要です。電磁的記録の保存に関する責任者を決めて、管理規則を作成することが望ましいとされています。特にクラウドサービスの場合、アクセス権限の管理や、データの改ざん防止対策なども含めて、しっかりとした管理体制を構築することが大切です。
具体的にはどんな管理規則を作ればよいでしょうか?
例えば、B製造業さんでは次のような規則を作っています。@データへのアクセス権限者の明確化、A定期的なバックアップの実施スケジュール、Bシステム障害時の対応手順、Cデータの保存期間と廃棄手順など。これらを文書化して、実際に運用しています。
それなら安心ですね。でも、クライアントの中には「海外にデータがあると税務調査で問題になるのでは?」と心配される方もいるんです。
その気持ちもよくわかります。でも、条件を満たしていれば法的には問題ありません。むしろ重要なのは、税務調査の際に速やかにデータを提示できる体制を整えておくことです。海外サーバでも、国内のパソコンから瞬時にアクセスできれば、実質的には何の問題もありませんよ。
そう考えると、技術の進歩に合わせて法律も柔軟に対応しているんですね。
その通りです。電子帳簿保存法は、ネットワーク化の進展や通信回線の高速化という技術的な背景を踏まえて、実質的な利便性を重視した制度設計になっています。大切なのは、形式的な保存場所ではなく、実際に必要な時にデータにアクセスできる状態を維持することなんです。
よくわかりました!これでクライアントにも自信を持ってアドバイスできそうです。ただし、条件の確認とバックアップ体制の整備は必須ですね。
そうですね。技術的な要件もありますから、導入前にはシステム会社と連携して、法的要件を満たしているかしっかり確認することをお勧めします。クラウド化は業務効率化の大きなメリットがありますから、適切に活用していきたいですね。
規則第2条第2項第2号に規定する備付け及び保存をする場所(以下「保存場所」といいます。)に備え付けられている電子計算機とサーバとが通信回線で接続されているなどにより、保存場所において電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、規則第2条第2項第2号に規定する状態で速やかに出力することができるときは、クラウドサービスを利用する場合や、サーバを海外に置いている場合であっても、当該電磁的記録は保存場所に保存等がされているものとして取り扱われます。
近年、コンピュータのネットワーク化が進展する中、通信回線のデータ送信の高速化も進み、コンピュータ間でデータの送受信が瞬時にできる状況となっていますが、電子帳簿保存法創設の趣旨(法第1条)を踏まえ、保存場所に備え付けられている電子計算機と国税関係帳簿書類の作成に使用する電子計算機とが通信回線で接続されていることなどにより、保存場所において電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、それぞれの要件に従って、速やかに出力することができるときは、当該電磁的記録は保存場所に保存等がされているものとして取り扱われます(取扱通達4−7注書き)。
そして、現在、企業が会計処理をはじめとする業務処理を外部委託する場合には、受託企業の大半が国内外の複数の場所にあるコンピュータをネットワーク化してデータ処理し、国内外のサーバにデータを保存している状況となっていますが、前述の点を踏まえれば、仮に電磁的記録が海外にあるサーバに保存されている場合(保存時に満たすべき要件を満たしている場合に限ります。)であっても、納税地にある電子計算機において電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力することができる等、紙ベースの帳簿書類が納税地に保存されているのと同様の状態にあれば、納税地に保存等がされているものとして取り扱われます。
なお、バックアップデータの保存については、法令上の要件とはなっていませんが、通信回線のトラブル等による出力障害を回避するという観点からバックアップデータを保存することが望まれます。
出所:国税庁