データ量が膨大であるなどの理由で複数の保存媒体で保存せざるを得ない場合

データ量が膨大であるなどの理由で複数の保存媒体で保存せざるを得ない場合

問15 保存対象となるデータ量が膨大であるため複数の保存媒体に保存しており、一課税期間を通じて検索できませんが、問題はありますか。

 

先生、クライアントの株式会社A商事から相談を受けたのですが、少し困っています。

 

 

どのような相談ですか?

 

 

A商事は年商50億円の卸売業で、取引データが膨大なんです。それで「保存対象となるデータ量が膨大であるため複数の保存媒体に保存しており、一課税期間を通じて検索できませんが、問題はありますか」と聞かれまして…。電子帳簿保存法の検索機能要件に抵触するのではないかと心配しているようです。

 

 

なるほど、よくある相談ですね。まず、電子帳簿保存法の検索機能要件について整理しましょう。原則として、検索機能では「その範囲を指定して条件を設定することができる」必要があり、これは一課税期間を通じて検索できることを前提としています。

 

 

ということは、A商事のように複数の保存媒体に分けて保存していると、原則的には要件を満たさないということでしょうか?

 

 

そうですね、原則論で言えばそうなります。しかし、実務では様々な事情がありますから、法律もそれを考慮しています。A商事のようなケースでは、例外的に認められる可能性が高いですよ。

 

 

例外的に認められるというのは?

 

 

合理的な理由がある場合には、例外が認められるんです。具体的には以下の3つのケースがあります。

  1. データ量が膨大であるなどの理由で複数の保存媒体で保存せざるを得ない場合
  2. 中間決算を組んでおり半期ごとに帳簿を作成している場合
  3. 書類の種類ごとに複数の保存媒体でデータ管理している場合

A商事のケースは、まさに1番目に該当しますね。

 

 

それは良かったです!でも、例外が認められるとして、何か条件があるのでしょうか?

 

 

はい、重要な条件があります。「その保存媒体ごとや一課税期間内の合理的な期間ごとに範囲を指定して検索をすることができれば差し支えない」とされています。

 

 

具体的にはどういうことでしょうか?事例で教えていただけますか?

 

 

例えば、A商事の場合で考えてみましょう。仮に以下のような保存方法をしているとします:

  • 保存媒体1:4月?9月のデータ
  • 保存媒体2:10月?3月のデータ

この場合、「2023年7月1日から2023年8月31日までの売上データを検索したい」という要求があった時、保存媒体1の中でその期間を指定して検索できれば問題ありません。

 

 

なるほど!では、「2023年8月1日から2023年11月30日」のように、複数の保存媒体にまたがる期間での検索はどうなりますか?

 

 

その場合は、保存媒体1で「8月1日?9月30日」を検索し、保存媒体2で「10月1日?11月30日」を検索して、それぞれの結果を合わせることになります。一度の操作で全期間を検索できなくても、各媒体で適切に検索できれば要件を満たすとされています。

 

 

それなら実務的にも対応できそうですね。ところで、A商事は「優良な電子帳簿」の承認を受けて、過少申告加算税の軽減措置を狙っているのですが、何か特別な要件はありますか?

 

 

良い質問ですね。「優良な電子帳簿」の場合、実は別の選択肢があります。税務職員による「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしている場合には、範囲指定検索機能と項目組み合わせ検索機能は不要となります。

 

 

ダウンロードの求めとは何でしょうか?

 

 

税務調査の際に、税務職員が「この期間のこのデータをダウンロードさせてください」と求めた時に、すぐに対応できる体制を整えておくことです。例えば、A商事の場合:

  • 各保存媒体からデータを取り出してダウンロード提供できる
  • CSVやExcel形式でのエクスポートが可能
  • 必要なデータを迅速に特定・抽出できる体制がある

これらが整っていれば、複雑な検索機能を実装しなくても良いということです。

 

 

それは現実的な選択肢ですね。A商事にはどちらをお勧めしますか?

 

 

A商事の場合、データ量が膨大ということであれば、「ダウンロードの求め」に対応できる体制を整える方が現実的だと思います。複数の保存媒体にまたがる複雑な検索システムを構築するよりも、コストと手間を考えると合理的でしょう。

 

 

分かりました。A商事には以下のようにお答えしようと思います:

  1. データ量が膨大で複数保存媒体を使用することは合理的理由として認められる
  2. 各保存媒体内で期間指定検索ができれば要件を満たす
  3. 「優良な電子帳簿」を目指すなら、ダウンロード対応体制を整える選択肢もある

 

 

完璧です!最後に一つ注意点があります。どの選択肢を取るにしても、事前に税務署への相談や、社内での運用ルール整備をしっかりと行うことをお勧めしてください。

 

 

承知いたしました。ありがとうございます!実務でよくある悩みだと思うので、他のクライアントにも参考になりそうです。

 

 

その通りです。電子帳簿保存法は実務に即した柔軟な運用が認められていますから、まずは原則を理解した上で、クライアントの実情に合わせた最適な方法を提案することが大切ですね。

【回答】

検索機能のうち「その範囲を指定して条件を設定することができる」を満たそうとする場合には、保存されている電磁的記録は、原則として一課税期間を通じて検索をすることができる必要があります。

【解説】

検索機能については、原則として一課税期間を通じて保存対象となる電子データを検索することができる必要があることから 、 検索機能のうち「その範囲を指定して条件を設定することができる」とは課税期間ごとの日付又は金額の任意の範囲を指定して条件設定を行い検索ができることをいうとされており(取扱通達4−10)、原則として、一課税期間ごとに任意の範囲を指定して検索をすることができる必要があります。

 

しかしながら、データ量が膨大であるなどの理由で複数の保存媒体で保存せざるを得ない場合や、例えば、中間決算を組んでおり半期ごとに帳簿を作成している場合 や書類の種類ごとに複数の保存媒体でデータ管理している場合 など、一課税期間を通じて保存対象となる電子データを検索することが困難であることについて合理的な理由があるときには、その保存媒体ごとや一課税期間内の合理的な期間ごとに範囲を指定して検索をすることができれば差し支えありません(取扱通達4−9。なお、優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の適用を受けるための優良な電子帳簿の要件としての検索機能の確保の要件については、その電子帳簿に係る電磁的記録について税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、この範囲を指定して条件を設定できる機能(及び項目を組み合わせて条件を設定できる機能)は不要となります。

 

出所:国税庁