

先生、先日のクラウドサービスの話の続きなんですが、D社の社長から「他社のクラウドじゃなくて、うちの自社システムじゃダメなの?」って聞かれまして...
ああ、よくある質問ですね。結論から言うと、原則として自社システムではタイムスタンプの代替要件を満たすことはできません。
やっぱりそうなんですね。でも、なぜダメなんでしょう? 自社でもきちんと訂正削除履歴を記録できるシステムを作れば良いんじゃないですか?
問題は「客観性」なんです。自社システムだと、システム管理者が時刻を変更できてしまう可能性がありますよね。
ああ、なるほど。サーバーの時計を巻き戻したりできちゃうってことですか。
その通りです。例えば、本当は1月15日に保存したのに、後から「1月10日に保存した」ように見せかけることが技術的には可能なんです。
確かに。でも、D社は「うちは絶対にそんなことしない」って言ってるんですが...
その気持ちは分かります。でも税務上の要件として求められているのは「第三者から見ても客観的に証明できる」ということなんです。本人が「やってません」と言うだけでは不十分なんですね。
厳しいですね。でも、確かに税務調査の時に客観的に証明できないと困りますもんね。
そうです。取扱通達4-26では、保存日時の証明が「客観的に担保されている」ことが必要と明記されています。
じゃあ、自社システムを使いたい会社は、絶対に無理なんでしょうか?
実は、例外が一つだけあります。その会社が「システムベンダー」の場合です。
システムベンダー?
つまり、時刻証明機能を備えたクラウドサービスやシステムを、他社に提供しているIT企業のことです。
ああ、クラウドサービスを売ってる会社ってことですか。なぜそういう会社だけ例外なんですか?
良い質問ですね。例えば、E社というシステム会社が、文書管理システムをF社、G社、H社という複数の顧客企業に提供しているとします。
はい。
E社が自分たちで時刻を改ざんしたら、顧客であるF社やG社、H社にも影響が出ますよね。つまり、第三者である顧客との関係性から、時刻の非改ざん性が担保されるんです。
なるほど! 勝手に時刻を変更したら、お客さんに迷惑がかかるから、やらないだろうという前提なんですね。
正確です。顧客との信頼関係、契約関係があるから、客観性が認められるということです。
じゃあ、D社のような製造業の会社が、自社の経理書類を自社システムで保存する場合は?
それは認められません。D社はシステムを外部に提供していないので、第三者との関係性がないからです。
なるほど。ちなみに、システム会社でも、自社の経理書類と顧客向けサービスを別のシステムで管理してたらどうなるんでしょう?
鋭い質問ですね。もし完全に別システムで、顧客が使っていないシステムなら、それは通常の自社システムと同じ扱いになると考えられます。
やっぱり「他社が使っている」というのが重要なんですね。
そういうことです。では、具体例で考えてみましょう。I社という会社が自社開発の文書管理システムを持っていて、「うちのシステムはNTPサーバーと同期してるから大丈夫」と言っているケース。
うーん、それでもダメなんですか?
はい。確かにNTPサーバーと同期していても、I社のシステム管理者がサーバーの設定を変更して、NTP同期を一時的に止めることができてしまいます。
ああ、そうか。同期の設定自体を変えられちゃうんですね。
その通り。でも、他社が提供するクラウドサービスなら、利用者側はサーバーの設定を変更できません。そこが決定的な違いです。
よく分かりました。じゃあ、J社という製造業の会社が「うちはISO27001を取得してて、厳格な管理をしてるから大丈夫」って言ってきたらどうしましょう?
ISOの認証は素晴らしいことですが、電帳法の要件とは別物です。ISOは管理体制の認証であって、時刻証明の客観性を担保するものではありません。
そうですよね。管理がしっかりしてるかどうかと、改ざんできないかどうかは別問題ですもんね。
その通りです。では、実際にK社であった事例を紹介しましょう。
お願いします。
K社は大手企業で、自社開発の基幹システムがありました。IT部門も充実していて、「自社システムで電帳法対応したい」と相談を受けました。
その規模だと自社システムもしっかりしてそうですね。
そうなんです。でも結局、タイムスタンプの代替要件は満たせないという結論になりました。
どうしたんですか?
K社には二つの選択肢を提案しました。一つは、タイムスタンプを付与する方法。もう一つは、外部のクラウドサービスと連携する方法です。
K社はどちらを選んだんですか?
K社は、基幹システムは自社のままで、スキャンした書類だけ電帳法対応のクラウドストレージに自動転送する仕組みを構築しました。
なるほど。ハイブリッドな方式ですね。
そうです。これなら、業務の流れはほとんど変えずに、電帳法の要件も満たせます。コストも最小限で済みました。
それは良いアイデアですね。他にはどんな解決策がありますか?
もう一つの方法は、タイムスタンプを使うことです。最近は自動でタイムスタンプを付与できるソフトウェアもあります。
自動で付与できるんですか?
はい。例えば、書類をスキャンして自社システムに保存すると同時に、タイムスタンプも自動的に付与されるような仕組みです。
それなら手間もかからなそうですね。
L社という中小企業では、そういうタイムスタンプ一体型のスキャナ保存ソフトを導入しました。月額3,000円程度で、年間1,000件までタイムスタンプを付与できるプランです。
思ったより安いんですね。
最近は電帳法対応の需要が増えて、価格競争も激しくなっていますからね。
先生、もう一つ質問なんですが、自社システムで「監査ログ」をきちんと記録していればどうでしょう?
監査ログは重要ですが、それだけでは不十分です。なぜなら、その監査ログ自体も自社システムで管理されているからです。
ああ、監査ログも改ざんできちゃうってことですね。
理論上はそうです。もちろん、実際に改ざんするかどうかではなく、「改ざんできないことを客観的に証明できるか」が問題なんです。
分かりました。じゃあ、M社のような会社はどうでしょう。M社はグループ会社で、親会社がIT企業なんです。
親会社のシステムを使ってるんですけど、これは自社システムになるんでしょうか?
良い質問ですね。それは親会社とM社の契約関係によります。
契約関係?
親会社が「クラウドサービス提供者」として、正式にM社にサービスを提供している形なら、他社提供のクラウドサービスとして認められる可能性があります。
なるほど。単に「親会社のシステムを使わせてもらってる」というのではダメなんですね。
そうです。きちんとしたサービス提供契約があり、SLA(サービスレベル契約)などで時刻証明の信頼性が保証されていることが重要です。
複雑ですね。
もう一つ重要なポイントがあります。仮に自社システムで対応しようとして、後で税務調査で否認されたらどうなると思いますか?
えっと、スキャナ保存が認められなくて、原本保存が必要だったということに?
その通りです。すでに原本を廃棄していたら、適切な保存をしていなかったことになり、青色申告の承認取消しなどのリスクもあります。
それは大変ですね。やはり確実な方法を選ぶべきですね。
そうです。N社という会社では、自社システムで対応しようとしていたんですが、税理士として「リスクが高すぎる」と説明して、結局クラウドサービスに変更してもらいました。
正しい判断ですね。
では、まとめましょう。自社システムでタイムスタンプの代替要件を満たすことは、原則としてできません。
例外は、システムベンダーが自社のサービスを使う場合だけ、ですね。
正確です。一般企業が自社システムで対応したい場合は、タイムスタンプを付与するか、外部のクラウドサービスを利用する必要があります。
理由は、自社システムだと時刻の非改ざん性を客観的に証明できないから。
完璧です。クライアントには、「確実性」と「コスト」を天秤にかけて、最適な方法を提案してください。
分かりました。D社には、クラウドサービスかタイムスタンプ付与の二択で提案してみます。
良いですね。その際、年間の書類保存件数や、既存システムとの連携のしやすさも考慮して提案すると良いでしょう。
はい、ありがとうございます。自社システムの客観性の問題、よく理解できました!
素晴らしい。電帳法対応は、技術的な要件だけでなく、客観性や証明可能性という法的な視点も重要なんです。これを忘れずにクライアントをサポートしてください。
時刻証明機能を他社へ提供しているベンダー企業以外は自社システムによりタイムスタンプ付与の代替要件を満たすことはできないと考えられます。
自社システムについては、保存された時刻の記録についての非改ざん性を完全に証明することはできないため、 取扱通達4ー26が求めるように保存日時の証明が客観的に担保されている場合に該当しないことから、原則として自社システムで当該代替要件を満たすことはできません。
ただし、時刻証明機能を備えたクラウドサービス等を他社へ提供しているベンダー企業等の場合には、サービスの提供を受けている利用者(第三者)との関係性から当該システムの保存時刻の非改ざん性が認められることから、自社システムであっても例外的に客観性を担保し得ると考えられます。
したがって、当該サービスを提供しているベンダー企業以外で自社システムを使用して保存時に満たすべき要件を充足しようとする場合には、代替要件によらずタイムスタンプを付与することが必要となります。
出所:国税庁
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