V 青色申告者の簡易帳簿とその記帳のしかた
1 備付け帳簿の内容
帳簿の種類については、行う業務の内容により異なりますが、標準的な簡易帳簿は、@現金出納帳、A売掛帳、B買掛帳、C経費帳、D固定資産台帳の5種類です。
(1) 現金出納帳
事業用の現金の出し入れの状況を、取引順に記載する帳簿です。
現金売上や現金仕入を行った場合の売上帳と仕入帳も兼ねています。
(2) 売掛帳
得意先ごとに口座(取引の内容を記載する場所。「勘定口座」ともいいます。)を設け、商品などの掛売りや、売掛金の回収の状況を記載する帳簿です。
次のような場合には、この売掛帳を利用して、それぞれの口座を設けて記載することができます。
@ | 商品を家事用に消費した場合…「家事消費」口座 |
A | 商品を事業用に使用した場合…「事業用消費」口座 |
(3) 買掛帳
仕入先ごとに口座を設け、商品などの掛買いや、買掛金の支払の状況を記載する帳簿です。
(4) 経費帳
仕入以外の事業上の費用を租税公課、水道光熱費、旅費交通費、給料賃金などの科目ごとに口座を設けて記載する帳簿です。
費用の金額を現金で支払った費用とそれ以外の費用(例えば、小切手支払や現物給与など)に区分して記載します。
(5) 固定資産台帳
事業用の減価償却資産や繰延資産について、原則として個々の減価償却資産ごとに口座を設け、資産の取得及びその異動に関する事項などを記載する帳簿です。
2 簡易帳簿の記帳のしかた
(1) 現金出納帳
最初の行の「摘要」欄に「前年より繰越」と記載して、前年末の現金(他から受け取った小切手や普通為替証書も現金として取り扱います。)の在高を「現金残高」欄に、次の記載例のように記載します。
年の途中で開業した場合は、最初の行の「摘要」欄に「元入金」と記載して、開業時に事業用資金とした現金の金額を「現金残高」欄に記載します。
現金による売上は、原則として一取引ごとに、相手方の名称、品名、数量及び単価を「摘要」欄に、金額を「現金売上」欄に記載しますが、現金小売や少額な現金卸売については、次の記載例のように日々の総額で記載することもできます。
また、保存している伝票、納品書控などにより品名、数量及び単価などの取引内容が確認できるものについては、その相手方別に日々の総額のみを記載することもできます。
【設例:入金取引】
@ 現金売上 | 1月4日 | 現金小売 ¥40,300 |
A 現金売上の返品 | 1月10日 |
A商品@100 3個返品 |
B 雑収入 | 1月10日 | 空箱売却代 ¥2,000を現金で受け取る。 |
C 預金からの引き出し | 1月14日 | 甲銀行b支店 普通預金から¥100,000を引き出す。 |
D 売掛金の回収 | 1月25日 | 上野商店より売掛金のうち¥30,000を現金で受け取る。 |
E 事業主からの借入れ | 1月30日 | 事業主より現金¥500,000を借り入れる。 |
【記載例】
(注)1 | Aの返品は赤書き |
2 | 売掛金を回収した場合には、同時に売掛帳のその得意先の口座の「受入金額」欄にも記載します。 |
3 | 「事業主借」とは、家計用の現金を事業用に充てるような場合に使用する勘定科目です。 |
【設例:出金取引】
@ 現金仕入 | 1月31日 | 品川商店からB商品120箱@380 ¥45,600を買い入れ、代金を現金で支払う。 |
A 店員の給料支払 | 1月31日 | 店員目黒へ1月分の給料(¥200,000)として源泉徴収税額(¥3,150)を差し引き¥196,850支払う。 |
B 専従者給与の支払 | 1月31日 | 妻へ1月分の専従者給与(¥150,000)として源泉徴収税額(¥2,980)を差し引き¥147,020支払う。 |
C 修繕費の支払 | 1月31日 | 大崎左官店へ店舗の壁の修理代¥20,000を現金で支払う。 |
D 買掛金の支払 | 1月31日 | 田町商店へ買掛金のうち¥70,000を現金で支払う。 |
E 生活費の支払 | 1月31日 | 2月分の生活費として現金¥250,000を妻へ渡す。 |
【記載例】
(注)1 | 買掛金を支払った場合には、同時に買掛帳のその仕入先の口座の「支払金額」欄にも記載します。 |
2 | 「事業主貸」とは、事業用の現金を家計用に充てるような場合に使用する勘定科目です。 |
(ポイント)
・ | 現金出納帳の記載は毎日行い、現金残高も必ず記載して、その日のうちに実際の現金と突き合わせることが大切です。 |
・ | 事業用の現金と個人的な現金を区分しましょう。 |
・ | 記帳の担当者、現金管理の担当者を決めましょう。 |
・ | 他から受け取った小切手は現金として取り扱いますが、自分が振り出した小切手は、当座預金の引き出しとなりますので注意してください。 |
・ | 預貯金の入金・出金に当たっては、預貯金の口座別に預金出納帳を作成し、取引順に記載します。 |
・ | 少額な取引が数多く発生する業種(例えば、鮮魚小売、野菜小売)などでは、売溜金方式により、1日の売上総額を記載する方法もあります。 |
・ | 商品の返品などで代金を払い戻した場合には、摘要欄に返品と明記して、現金売上欄に赤書き(又は金額に△を付して)表示して記載します。 |
・ | 費用を支払った場合は、同時に経費帳の記載も忘れずに行いましょう。 |
(2) 売掛帳
売掛帳には、商品などの掛売りや売掛金の回収の状況を記載します。
得意先ごとに口座を設け、それぞれ、その得意先の氏名又は名称、住所(営業所の所在地)、電話番号などを記載します。
最初の行の「品名」欄に「前年より繰越」と記載して、その得意先に対する前年末の売掛金の残高を「差引残高」欄に記載します。
【設例】
@ 売上 | 1月11日 | 上野商店にD商品70個(@1,500)¥105,000とE商品250個(@560)¥140,000を販売し、代金は掛けとする。 |
A 売掛金の回収 | 1月25日 | 上野商店から売掛金のうち¥30,000を現金で受け取り、¥100,000を同店振出、当店あて約束手形#2(本日付、3月25日満期、支払場所乙銀行c支店)で受け入れる。 |
B 商品の返品 | 1月29日 | 上野商店へ1月20日に掛売りしたD商品3個(@1,500)¥4,500について、不良品につき返品を受ける。 |
C 売上代金の値引き | 1月29日 | 上野商店へ1月20日に掛売りしたE商品8個キズものにつき¥1,200を値引きする。 |
【記載例】
(ポイント)
・ | 納品書控などで品名等の取引内容が確認できるものは、得意先別にまとめて記載することもできます。 |
・ |
商品の家事消費、事業用消費及び雑収入についても、この売掛帳に口座を設けて記載しましょう。
また、事業用消費については、同時に「経費帳」のその用途に応じた経費科目にも忘れずに記載しましょう。
例えば、棚卸商品を使用人に支給した場合には経費帳の「給料賃金」の口座に、宣伝用に使った場合には「広告宣伝費」の口座に同額を費用として記載します。 |
(3) 買掛帳
買掛帳には、商品などの掛買いや買掛金の支払の状況を記載します。
仕入先ごとに口座を設け、売掛帳と同様に、仕入先の名称等を次の記載例のように記載します。
最初の行の「品名」欄に「前年より繰越」と記載して、その仕入先に対する前年末の買掛金の残高を「差引残高」欄に記載します。
【設例】
@ 仕入 | 1月11日 | 田町商店からF商品40個(@900)¥36,000とG商品50個(@1,000)¥50,000を仕入れ、代金は掛けとする。 |
A 買掛金の支払 | 1月31日 | 田町商店へ買掛代金のうち、¥70,000を現金で支払い、¥200,000 を同店あて約束手形#5(本日付、4月1日満期、支払場所丙銀行a支店)を振り出す。 |
B 商品の返品 | 1月31日 | 田町商店から1月11日に掛買いしたF商品10個@900¥9,000について、不良品につき返品する。 |
C 仕入代金の値引き | 1月31日 | 田町商店から1月11日に掛買いしたG商品3個キズものにつき¥1,500の値引きを受ける。 |
【記載例】
(4) 経費帳
経費帳には、仕入以外の修繕費、税金、運賃、交通費などの費用を記載します。
記帳を始める前に、まず、費用の科目の分類を考え、その科目ごとに口座を設け、次の記載例のように記載します。
【記載例】
家事上の経費に関連する経費(家事関連費)については、家事上の経費を除いて記載するのが原則ですが、その使用状況に基づき年末に一括して家事上の経費(減算)を、次の記載例のように記載することもできます。
(5) 固定資産台帳
事業用に使用する建物や車両などは、減価償却資産として、その資産の取得に要した費用を使用可能期間に配分して必要経費に算入します。
このため、これらの減価償却資産については「固定資産台帳」を記帳して管理していくことになります。
なお、この台帳は年末にまとめて記載しても構いません。
減価償却資産について、個々の資産ごとに口座を設け、各資産の取得年月日、取得価額などから減価償却費の計算を行って、取得価額から償却額を差し引いた金額(未償却残高)などを次の記載例のように記載します。
【設例@】
店舗兼住宅の購入 | ○年5月10日 | 店舗兼住宅(100m2。うち店舗部分40m2)を購入し、代金¥12,000,000を現金で支払う。 |
※ 平成19年4月1日以降の取得の例です。
【記載例】
【設例A】
資本的支出となる |
○年5月25日 | 上記店舗兼住宅の改修費¥2,000,000を現金で支払う。 |
【記載例】
(ポイント)
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減価償却費の計算方法には、平成19年4月1日以後に取得した減価償却資産については「定額法」や「定率法」など、平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産については「旧定額法」や「旧定率法」などの計算方法があり、あらかじめ税務署へ届け出ている償却方法により計算します。
なお、償却方法を届け出ていない場合は、原則として、定額法(旧定額法)により計算することになります。
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・ | 取得価額には、建物、機械などの購入代金や建築費などのほか、引取運賃、購入手数料、運送保険料などその資産を取得するために支払った費用などが含まれます。 | ||||
・ | 平成19年4月1日以後に行った、資産の価額を増したり、使用可能期間を延長したりするような資本的支出については、原則として、その資本的支出を行った減価償却資産と種類や耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとみなして、その資本的支出に係る金額を一の減価償却資産の取得価額として減価償却費を計算します。 | ||||
・ | 個々の資産の「耐用年数」・「償却率」などは「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で定められており、主なものは「青色申告決算書(一般用)の書き方」や「収支内訳書(一般用)の書き方」等(国税庁ホームページからダウンロードできます。なお、税務署にも用意しています。)に記載しています。 |
3 月別総括集計表への移記
月末には、帳簿に記載されている事項と納品書や請求書、領収書などの原始記録を照合して、記載誤りや記載漏れがないかどうかをよく確かめた上で、各帳簿の各欄ごとに、その月の合計と年初からその月までの累計を計算しましょう。
こうすることにより、年末における整理(決算)が容易になります。
○ 決算のしかたについては、「青色申告の決算の手引き(一般用)」や「青色申告者のための貸借対照表作成の手引き」(国税庁ホームページからダウンロードできます。なお、税務署にも用意しています。)を参照してください。
出所:国税庁