市販のヴァージョン管理ソフトを使用すれば、訂正又は削除の履歴の確保(ヴァージョン管理)の要件を満たしているといえるのでしょうか。

市販のヴァージョン管理ソフトを使用すれば、訂正又は削除の履歴の確保(ヴァージョン管理)の要件を満たしているといえるのでしょうか。

問33 市販のヴァージョン管理ソフトを使用すれば、訂正又は削除の履歴の確保(ヴァージョン管理)の要件を満たしているといえるのでしょうか。

 

先生、P社から「GitHubみたいなバージョン管理ソフトを使えば、電帳法の訂正削除履歴の要件を満たせますよね?」って聞かれたんですが...


 

ああ、それもよくある誤解ですね。結論から言うと、市販のバージョン管理ソフトを使っているからといって、必ずしも電帳法の要件を満たしているとは限りません。


 

えっ、そうなんですか? バージョン管理って、履歴を残す仕組みですよね?


 

その通りです。でも、ソフトウェア業界で言う「バージョン管理」と、電帳法で求められる「バージョン管理」は、実は意味が違うんです。


 

違うんですか? どう違うんでしょう?


 

一般的なバージョン管理ソフト、例えばGitやSubversionなどは、プログラムのソースコードを管理するためのものです。新しく作り直したものを第2版、第3版と関連付けていく手法ですね。


 

はい、開発の現場でよく使われてますよね。


 

でも電帳法のスキャナ保存で求められるバージョン管理は、もっと厳格な要件があるんです。具体的には4つの要件を全て満たす必要があります。


 

4つの要件ですか?


 

はい。一つ目は「初版の保存」です。スキャナで読み取った電子データは必ず初版として保存して、既に保存されているデータを改訂したもの以外は第2版以降として保存されないこと。


 

うーん、ちょっと難しいです。具体例で教えてもらえますか?


 

では、Q社の請求書を例に説明しましょう。取引先から請求書を受け取ってスキャンしたら、これが「第1版」として保存されます。


 

はい。


 

その後、何か修正があってスキャンし直した場合、これが「第2版」になります。ここまでは普通のバージョン管理ソフトと同じですね。


 

そうですね。


 

でも重要なのは、「全く別の新しい請求書をスキャンした場合は、第2版にならず、別の第1版として扱う」ということです。


 

ああ、なるほど! 同じ書類の修正版だけが第2版、第3版になるんですね。


 

その通りです。一般的なバージョン管理ソフトだと、この区別が曖昧な場合があります。


 

なるほど。2つ目の要件は何ですか?


 

「更新処理の制限」です。更新処理ができるのは一番新しいバージョンのみとすること、という要件です。


 

一番新しいバージョンのみ?


 

はい。例えば、第1版、第2版、第3版があったとします。このとき、第2版を修正して第4版を作る、という処理はダメなんです。


 

えっ、ダメなんですか?


 

そうです。正しくは、直前の第3版を更新して第4版を作る必要があります。常に最新版から次のバージョンを作るというルールです。


 

なぜそんなルールがあるんでしょう?


 

履歴の整合性を保つためです。途中の版から新しい版を作ってしまうと、履歴の流れが複雑になって、改ざんの可能性が高まるからです。


 

なるほど。Gitだと、昔のコミットからブランチを切ったりできますけど、それはダメってことですね。


 

正確です。電帳法では、そういう柔軟性は認められていません。直線的な履歴管理が求められます。


 

3つ目の要件は?


 

「削除と履歴の保持」です。削除は物理的に行わず、削除フラグを立てるなど形式的に行うこと。そして全ての版および訂正前の内容が確認できること、という要件です。


 

物理的に削除しちゃダメなんですか?


 

そうです。例えば、R社で実際にあった事例を紹介しましょう。


 

お願いします。


 

R社は市販の文書管理ソフトを使っていて、古い見積書を「削除」したんです。でもそのソフトでは、削除するとデータが完全に消えてしまう仕組みでした。


 

それじゃダメなんですね。


 

はい。電帳法では、削除しても「削除済み」というフラグが立つだけで、データ自体は残っていなければなりません。


 

つまり、見た目上は削除されているけど、実際にはデータは残っているということですね。


 

その通りです。ゴミ箱に入れただけの状態、と考えると分かりやすいでしょう。


 

なるほど。4つ目の要件は?


 

「削除データの検索」です。削除されたデータについても検索を行うことができること、という要件です。


 

削除したデータも検索できる必要があるんですね。


 

そうです。税務調査の時に「削除された書類も含めて検索して提示してください」と言われることがあるからです。


 

じゃあ、完全に消えちゃってたら困りますね。


 

その通りです。では、S社の事例を見てみましょう。


 

はい。


 

S社は、ある有名な文書管理ソフトを使っていました。「バージョン管理機能あり」と謳っていたので、電帳法対応だと思い込んでいたんです。


 

でも違ったんですか?


 

はい。そのソフトのバージョン管理は、上書き保存ではなく別ファイルとして保存する機能だったんです。つまり、第1版、第2版、第3版がそれぞれ独立したファイルとして存在する仕組みでした。


 

それの何が問題なんですか?


 

第2版を削除すると、本当に消えてしまうんです。削除フラグではなく、物理削除されてしまいました。


 

ああ、3つ目の要件を満たしていないんですね。


 

その通りです。S社は慌てて、電帳法対応を謳っている別のソフトに切り替えることになりました。


 

大変でしたね。じゃあ、どうやって市販ソフトが電帳法の要件を満たしているか確認すればいいんでしょう?


 

良い質問です。まず、ベンダーに対して具体的に4つの要件を満たしているか確認することです。


 

具体的にはどう聞けばいいですか?


 

「初版の保存について、新規書類は必ず第1版として保存され、既存データの改訂のみ第2版以降になりますか?」と聞いてください。


 

はい。


 

「更新は最新版からのみ可能で、過去の版から新しい版を作ることはできませんか?」と確認します。


 

なるほど。


 

「削除は物理削除ではなく、フラグ管理で、削除後もデータは残りますか?」と聞きます。


 

そして「削除されたデータも検索できますか?」と。


 

完璧です。これら4つの質問に全て「はい」と答えられるソフトなら、要件を満たしている可能性が高いです。


 

可能性が高い、ということは100%じゃないんですか?


 

最終的には、実際の動作を確認することをお勧めします。T社では、導入前にデモ環境で実際にテストをしました。


 

どんなテストですか?


 

まず書類をスキャンして第1版を保存。次に修正版をスキャンして第2版を保存。それから第1版を削除してみる。削除後も検索で見つかるか確認する、という流れです。


 

なるほど、実際に試してみるんですね。


 

そうです。さらに重要なのが、削除した第1版の内容が確認できるかどうかです。


 

見られるだけじゃダメなんですか?


 

見られることが大前提です。税務調査の時に「この削除された書類を表示してください」と言われたときに、ちゃんと表示できないと困りますから。


 

確かにそうですね。


 

では、U社で実際にあった複雑なケースを紹介しましょう。


 

お願いします。


 

U社は取引先から2月1日付の見積書を受け取ってスキャンしました。これが第1版です。


 

はい。


 

ところが翌週、取引先から「見積内容を変更しました」と言って、新しい2月8日付の見積書が届いたんです。


 

ああ、よくありますね。


 

このとき、新しい見積書をスキャンするわけですが、これは第2版になるべきでしょうか?


 

うーん、同じ見積書の改訂版だから第2版...でも、日付が違うから別物のような気もします。


 

鋭いですね。これは「別の第1版」として扱うのが正解です。なぜなら、全く新しい書類だからです。


 

じゃあ、古い2月1日付の見積書はどうするんですか?


 

削除フラグを立てて、削除済みフォルダに移します。ただし、データ自体は残しておく必要があります。


 

なるほど。これで両方の見積書の履歴が保持されるんですね。


 

その通りです。一般的なバージョン管理ソフトだと、この区別が難しい場合があります。


 

市販ソフトを選ぶ時の注意点は他にありますか?


 

「電帳法対応」と書いてあっても、何の要件に対応しているのか確認することです。


 

電帳法対応にも色々あるんですか?


 

はい。例えば、タイムスタンプ機能だけ対応していて、バージョン管理は非対応というソフトもあります。


 

なるほど。「電帳法対応」という言葉だけで安心しちゃダメなんですね。


 

その通りです。V社では、「電帳法対応」と書かれたソフトを購入したんですが、実は検索機能だけが対応していて、バージョン管理は非対応でした。


 

それは困りますね。


 

結局、別途タイムスタンプサービスを契約することになり、想定外のコストがかかってしまいました。


 

事前の確認が本当に大切なんですね。


 

そうです。もう一つ重要なのが、ベンダーのサポート体制です。


 

サポート体制?


 

電帳法の要件は時々改正されます。そのたびにソフトウェアもアップデートが必要になる可能性があります。


 

ああ、法改正に対応してくれるかどうかってことですね。


 

その通りです。W社は、安価な買い切り型のソフトを購入したんですが、開発が終了していて法改正に対応してもらえませんでした。


 

それは困りますね。結局どうしたんですか?


 

泣く泣く、サブスクリプション型の別のソフトに乗り換えることになりました。最初の投資が無駄になってしまったんです。


 

もったいないですね。


 

では、まとめましょう。市販のバージョン管理ソフトを使っても、必ずしも電帳法の要件を満たしているとは限りません。


 

4つの要件を全て満たしているか確認する必要があるんですね。


 

正確です。初版の保存、更新処理の制限、削除と履歴の保持、削除データの検索、この4つです。


 

ベンダーに具体的に質問して、できれば実際にテストもする。


 

完璧です。そして「電帳法対応」という言葉だけで判断せず、何の要件に対応しているのか詳細を確認することも忘れずに。


 

分かりました。P社には、使用予定のソフトがこの4つの要件を満たしているか、ベンダーに確認するようアドバイスします。


 

良いですね。必要なら、私たちも一緒にベンダーとの打ち合わせに参加して、技術的な質問をサポートしますよ。


 

ありがとうございます。市販ソフトのバージョン管理と電帳法のバージョン管理の違い、よく理解できました!


 

素晴らしい。この知識があれば、クライアントを適切にサポートできますね。バージョン管理は電帳法対応の要の一つですから、しっかりと押さえておきましょう。

【回答】

市販のヴァージョン管理ソフトを使用しても、必ずしも要件を満たしているとはいえません。

【解説】

ソフト業界などでは、一般に新聞の版数管理のような、新しく作り直したものを第2版、第3版と関連付けていくことがヴァージョン管理と認識されていますが、スキャナ保存の要件であるヴァージョン管理においては、訂正したものを上書き保存するのではなく、その訂正の履歴を残すため第2版、第3版として管理(保存)するので、その内容は異なり、市販されているソフトには前者をヴァージョン管理とするものも存在するため、市販のヴァージョン管理ソフトを使用しているからといって、全てスキャナ保存の要件を満たしていることにはなりません。


なお、スキャナ保存の要件であるヴァージョン管理とは、次に掲げることを全て満たすものである必要があります。
@ スキャナで読み取った電子データは必ず初版として保存し、既に保存されているデータを改訂したもの以外は第2版以降として保存されないこと。
A 更新処理ができるのは一番新しいヴァージョンのみとすること。
B 削除は物理的に行わず、削除フラグを立てるなど形式的に行うこととし、全ての版及び訂正した場合は訂正前の内容が確認できること。
C 削除されたデータについても検索を行うことができること。